観心本尊抄副状 文永十年(1273年)四月二十六日 聖寿五十二歳御著作


 帷一つ、墨三長、筆五官給び候ひ了んぬ。
 観心の法門少々之を註し、大田殿・教信御房等に奉る。
 此の事日蓮当身の大事なり。之を秘して無二の志を見ば之を開拓せらるべきか。
 此の書は難多く答へ少なし。未聞の事なれば人の耳目之を驚動すべきか。
 設ひ他見に及ぶとも、三人四人座を並べて之を読むこと勿れ。
仏滅後二千二百二十余年、未だ此の書の心有らず、国難を顧みず五五百歳を期して
之を演説す。
 乞ひ願はくば一見を歴来たるの輩、師弟共に霊山浄土に詣でて、三仏の顔貌を拝見
したてまつらん。
 恐々謹言

 文永十年〈太歳癸酉〉卯月廿六日              日蓮 花押

 富木殿御返事


目次へ