聖人等御返事 弘安二年(1279年)十月十七日 聖寿五十八歳御著作


 今月十五日〈酉時〉御文、同じき十七日〈酉時〉到来す。
 彼等御勘氣を蒙るの時、南無妙法蓮華經と唱へ奉ると云云。偏に只事に非ず。
 定めて平金吾の身に十羅刹の入り易はりて、法華経の行者を試みたもうか。例せば
雪山童子・尸毘王等の如し。将又悪鬼其の身に入る者か。
 釈迦・多宝・十方の諸仏・梵帝等、五五百歳の法華経の行者を守護すべきの御誓ひ
は是なり。 
 大論に云はく「能く毒を変じて薬と為す」と。天台云はく「毒を変じて薬と為す」
云云。
 妙の字虚しからずんば定めて須臾に賞罰有らんか。
 伯耆房等深く此の旨を存じて問注を遂ぐべし。
 平金吾に申すべき様は、去ぬる文永の御勘氣の時、乃聖人の仰せ忘れ給ふか。其の
殃未だ畢らざるに、重ねて十羅刹の罰を招き取るかと、最後に申し付けよ。

 恐々謹言

 弘安二年十月十七日 戌時                 日蓮 花押 

 聖人等御返事 

 この事のぶるならば、此の方にはとがなしとみな人申すべし。
 又大進房が落馬あらわるべし。あらはれば、人々ことにおづべし。天の御計らひな
り。 
 各々もおづる事なかれ。つよりもてゆかば、定めて子細いできぬとおぼふるなり。
 今度の使ひにはあわぢ房を遣はすべし。

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